アジア安全保障会議で基調講演する岸田首相
=6月10日、シンガポール(共同)
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岸田文雄首相がシンガポールを訪問し、各国の防衛担当閣僚らが集うアジア安全保障会議(シャングリラ対話)で、基調講演を行った。
ロシアによるウクライナ侵略を「対岸の火事」ではないと指摘し、インド太平洋地域の平和と繁栄を守ることを念頭に「日本が果たすべき責任は大きい」と語った。
注目すべきは「平和のための岸田ビジョン」を発表し、「日本の外交・安全保障面での役割を強化していく」と表明したことだ。
岸田ビジョンは、「ルールに基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化」を冒頭に掲げた。インド太平洋地域はもとより、世界を対象に外交安保政策を展開していく方針を示したものだ。
さらに、日本の防衛力の抜本的強化と、日米同盟と有志国との安保協力の強化を進めるとした。
いずれも極めて妥当である。
日本や地域の平和と繁栄を守るには、外交努力に加え、それを裏打ちする防衛力が欠かせない。
日本の防衛力の抜本的強化に反発するのは、国際法を軽んじ、「力による現状変更」を志向する中国、北朝鮮、ロシアや、反日感情が残る韓国の一部くらいだ。
日本が安保面でも役割を増し、同盟国や有志国と手を携えて平和な秩序を守っていくことを歓迎するのが世界の大勢である。
岸田首相は基調講演で、中国を念頭に、南シナ海で「ルール」が守られていないと指摘した。東シナ海では国際法に従わず、力を背景にした一方的な現状変更の試みが続いており、「わが国は断固とした態度で立ち向かっている」と説明した。「台湾海峡の平和と安定は極めて重要」と語った。
シャングリラ対話に出席した米国のオースティン国防長官は中国の魏鳳和国務委員兼国防相との会談で、台湾問題をめぐり、「(事態を)不安定化させる行動」を自制するよう求め応酬となった。
軍事力と経済力を振りかざす中国の問題行動に公然と異議を唱えられるのは日米など限られた国しかない。
インド太平洋の国々の前で岸田首相が「ビジョン」を示し、ルールに基づく国際秩序を守ろうと呼びかけた意義は大きい。あとは対中抑止へ行動あるのみだ。まず、防衛費の国内総生産(GDP)比「2%以上」への増額を急ぐことが平和への近道となる。
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2022年6月12日付産経新聞【主張】を転載しています